午前0時の恋人契約
お店の灯りや電光掲示板で、キラキラと光る夜の街。
若者から中年まで沢山の人が行き交う、がやがやとした駅前を抜け、貴人さんは迷うことなく近くの大きなビルへ足を踏み入れた。
その最上階にあったのは『創作フレンチ』と書かれたレストランで、出迎えたウェイターは慣れた様子で私たちを置くの個室へと通した。
「お食事はおまかせのコースでよろしかったでしょうか」
「あぁ。飲み物は……俺はグラスワインの赤で。すみれはどうする」
「あ……じゃあ、同じで」
席について早々に聞かれたことに、小さく頷いて答える。
お酒は正直あまり強くはないけれど、どんなものがあるのかも分からないし、メニューを見てすぐに決められる自信もない。
そんな気持ちからそう答えると、ウェイターは静かにその場を後にした。
フレンチレストラン、かな。
きょろ、と辺りを見回せば、そこはクリーム色の仕切りで囲われた小さな個室席。
けれど東京の街を一望できる大きな窓の外に広がる景色に、窮屈さや息苦しさは微塵も感じられない。
微かな音楽と穏やかな灯り、そしてこの景色。どれをとっても居心地のいいお店だと思った。
「素敵なお店ですね。こういうところ、よく来るんですか?」
「うちの店のマニュアルに載ってたんだよ。『女心を掴むのにうってつけのレストラン』って」
「それ、一応お客の私の前で言います……?」
マニュアル通りに動いてる、なんて普通の恋人気分を楽しみたいお客さんである女性たちの前では言わないだろう。
けどそういうわけじゃないからといってネタばらしをするなんて、ちょっと扱いが雑だと思う。
マニュアルに載ってるようなお店で喜んじゃうなんて……私も単純だと思われただろうなぁ。
そうは思っても、やっぱり店内の雰囲気は素敵なのだから仕方ない。