午前0時の恋人契約
「失礼いたします、お飲み物をお持ちしました」
ウェイターがテーブルに並べて行ったのは、赤ワインが注がれた丸いワイングラス。
「じゃあ、乾杯」
「か……乾杯」
コン、と小さくグラスを合わせると、グラスの中の赤い波が小さく揺れた。
まるで宝石を散りばめたような、素敵な東京の夜景。それを横目にこうしてグラスを合わせるなんて、本当のデートみたいだ。
ワインに小さく口をつけた彼を見るだけで、変に錯覚してしまいそうになる。
「当日の俺たちの設定だが、確か親には付き合って1年って言ってあるんだったな?」
「あ、はい。まずかったですか?」
「いや、丁度いい。まだ結婚話には早いし、後で別れたって言っても誤魔化せるくらいだしな」
確かに……。あの時はなにも考えずに言ったけれど、そう言われると納得できる。
貴人さんは話しながらワイングラスをテーブルの上へ置いた。
「けど、1年付き合った恋人同士なら、まぁそれなりに親密な関係になってるわけだ。ってことは、俺たちもそれなりに打ち解けておかないとダメだと思う」
「確かに……」
「特にお前、人に対して警戒心強そうだしな」
うっ……バレてる。
けど、言われてみればそうだ。
大人の男女が1年付き合えば、当然キスもそれ以上も済ませているわけで。他人のような距離感でいては、きっとすぐに見破られてしまうだろう。
その距離感を縮めるために、こうしてデートを重ねるわけで……。
「つまり」
すると貴人さんはテーブルの上で、グラスを持とうとした私の右手に自分の左手をそっと重ねる。
この手を覆ってしまうくらい大きな彼の手。少し体温の高い、ごつごつとしたその手の感触に、ついドキッと心臓がはねる。