ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
携帯には何も連絡はない。
それとも私、見逃してたかな。


そう思いながら、着信メールを探す。
画面をスクロールしながら、そう長いこと遡らなくても最後の履歴に辿り着いてしまう。
私は、はは、と力無く笑った。


考えてみれば、私の携帯に彼の電話番号とメールアドレスが登録されたのも、そう前のことじゃない。


「好きな食べ物が何か、も。知らなくて当然だよね……」


なんとなくぼんやり呟いた時、玄関の方からガチャッと鍵の開く音がした。
ハッとして身体を起こして、弾かれたように廊下を走って玄関に向かう。


「倉西さんっ……! お帰りなさいっ」


パタパタとスリッパを鳴らして駆け寄る私に、軽く背を屈めて靴を脱いでいた彼が、端正な顔を上向けた。
それはほんの一瞬で、直ぐに足元に目を向けながら、何故かハアッと深い溜め息を漏らす。


「……ただいま。って言うか、何? 『倉西さん』って。お前ももう倉西さんだろうが。何度言えばわかるんだよ」


疲れてるのかな。どこか不機嫌な声。
ごめんなさい、と謝ってから、


「……響、さん……」


小声で言い直した。


ドキドキしながら呼び慣れない名前を口にしたのに、響さんは何も言わない。
そのままスッと立ち上がって、私を軽くどかすように押し退けると、スタスタと廊下を歩いて行ってしまう。
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