ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
仕事を覚えるのに精一杯で、他のチームの状況なんか気にしていられる状況じゃなかった。
それでもなんとなくそんな事件があったことを確かに私は知っていた。


ぼんやりと思い出してから、ハッと思い当たって軽く身を乗り出す。
美砂子はアイスコーヒーのストローを咥えながら、そ、と短く答えた。


「その顧客、中谷さんの担当だったって。もちろん、顧客からのクレームでは彼女も名指しされて……。
まだ入行三年目だった中谷さんも始末書、減給っていう処分を免がれなかったらしいよ」


詳しく内容を聞いてみると、それは中谷さんにとって不運だったとしか言いようがない。
正直店頭で営業活動をしていれば、誰にでも起こり得る事態だった。


「めぐの考えにも、同意出来るよ。いくら順風満帆なキャリアOLでも、そんな事態に巻き込まれたら当然へこむと思う。
そんな時に、付き合いの長い彼氏がいたら……」


仕事を辞めて、結婚に逃げる。
そんな気持ちになるのは、キャリアウーマンとは程遠い私でも十分理解出来た。


「きっと、中谷さんは倉西さんと結婚を考えて、そして断られたんだろうね。そんな状況なのに、どんなに傷付いたんだろう……」


美砂子の声が沈んで行く。
他人事ながら心境をなぞって、共感して同情してるんじゃないかと思う。


私だって、それだけ聞いていたら中谷さんの心の傷に同調する。


でも私は知っている。


響さんは決して中谷さんのプロポーズを『断った』訳じゃない。
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