ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「……ごめん。そんなに真剣に謝って欲しいとは思ってない。……っつーか、どうしよっか」


そう言って、響さんは車通りの少ない道路をグルッと見渡した。
そして、手段なし、とでも言いたげに肩を竦めた。


「車に戻るには結構距離あるな。……止むまでここで待つか?」


響さんがそう言いながら振り返った瞬間、私はクシュンと小さなくしゃみをした。
途端に、響さんの顔が曇る。


「ご、ごめんなさい……」


両手で鼻と口を押さえたままで謝ると、響さんはハアッと溜め息をついた。


「このままじゃ、本気で風邪引くな。……仕方ない、萌、ちょっとここで待ってろ」

「え?」


聞き返しながら顔を上げた時には、響さんは降りしきる雨の中に再び駆け出そうとしていた。
私はその腕にしがみ付いて、慌てて止める。


「こんな雨の中、どこ行くんですか!?」

「お前、来週大事な仕事抱えてるんだし、今風邪引く訳行かないだろ。
だから、車取ってくる。そんなに待たせないよ、大丈夫」


響さんはあっさりとそう言って、私の腕から自分の腕をするっと抜き取ろうとした。
それを、逃がさない、と言うように、私は腕に力を込めた。


「そんな! ダメです! それこそ、響さんが風邪引いたら座談会どうなるんですかっ!」

「俺はこのくらいならそうそう風邪もひかないよ」

「なんで言い切れるんですか! それに、こうなったのだって私のせいなのに!」


お互いに一歩も引かずに言い合って、一瞬顔を見合わせた。
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