ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
ただ、どうしても我慢出来なかった。
響さんに愛されてた人が、こんなこと言うなんて。


だって、はぐらかされたのは私。
誤魔化されたのは私の方なのに。


「萌、止せ」


テーブルに手をついて腰を上げかけた私を、響さんの腕が制する。
それを見て、中谷さんが一瞬戸惑った表情を浮かべた。


「……もしかして、沢木さんが……?」


戸惑いながら探る視線に身を貫かれる。
だけど私は思い切って顔を上げた。


「響さんはちゃんと中谷さんの気持ちに応えてたのに! 今のあなたの姿を誰よりも願っていたのは、響さんです。
あなたと同じように愛してたんだから、辛かったのは響さんだって同じです!」


最後は悔しくて泣き声になった。


「だからっ……」

「萌っ!!」


空気を震わす鋭い声で、響さんが私を止めた。
その声色に身体が竦んで、ハッとしながら唇を噛み締める。


私が黙ったのを見て、響さんはなずなちゃんに目配せした。
お開きにしろと合図してるのがわかる。


「あ……。すみません、そろそろお時間も迫って来ましたので……」


響さんに助けられたように、なずなちゃんが取って付けたような締め言葉を口上し始めた。
メンバーはみんなただ沈黙して、なんとなく中谷さんと響さんを窺い見ている。


なずなちゃんの言葉を、肩を震わせながら俯いて聞いた。


そして、座談会の解散が告げられると、私は勢い良く立ち上がってお座敷を飛び出していた。
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