ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「え? あの……」


その淡泊さに、私の方が呼び止めてしまう。


「いいよ。無理しなくて。じゃ、お先に」


人をこれだけ焦らせておいて、響さんは軽く手を振る。
その姿に妙に疲れてがっくりと頭を垂れると、着替えを抱えた響さんがキッチンを素通りして、


「萌」


と私を呼んだ。


「……はい、なんでしょうか……」


まだドキドキと鼓動は打ち鳴っている。
気持ちはいっぱいいっぱいで、無愛想に聞き返すと、響さんは面白そうに笑った。


「今日は引き下がるけど、考えてみたら、来週俺の誕生日なんだよな」

「……へ……?」

「萌がしてくれる盛大なお祝い。これ、企画に入れておいて」

「えっ……!? ひ、響さんっ!?」


ギョッとして慌ててキッチンを飛び出した。
響さんはバスルームのドアを開けて、私にヒラヒラッと手を振ってからその中に入って行く。


「ちょっ……」


バスルームのドアに手を掛けようとして、直ぐに我に返った。


いやいや……拒否したのに追い掛けてどうする。


ソワソワしながらキッチンに戻って、一度はああっと大きく息をついた。


あんな冗談、さすがに心臓に悪い。


火照った頬に濡れた手を当てて冷ましてから、気持ちを切り替えて洗い物を再開しようとした。


バスルームから聞こえてくるシャワーの音を意識しながら、泡だらけのスポンジを手にして……。


フッと。
意識は逸れて行く。
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