アイザワさんとアイザワさん

振り返る気持ちにもなれず、運転手さんに「どちらまで?」と聞かれた途端に「とりあえず、走ってください!!」とその言葉に被せるように言った。


そんな私の様子が相当切羽詰まって見えたらしい。運転手さんは慌てて車を走らせた。


「……大丈夫なんですか?」

運転手さんが私の様子をうかがうように聞いてきた。たぶん、相澤が追いかけて来た様子も見えていたのだろう。心配して聞いている……というよりはトラブルになるのは嫌だな、といった感じの聞き方だった。


「大丈夫です。ちょっと喧嘩しただけですから……」そう言って携帯を取り出す。「そのまま真っ直ぐ走ってください。」と言って、すぐに電源を落とした。


しばらく、余計なことは考えたくなかった。


***

突然の訪問に彼女はとても驚いていた。
連絡をしないまま家を訪れるなんて初めてのことだったから。


「どこに行けばいいんですか?」タクシーの運転手さんにそう聞かれた時、鞠枝さんの家しか思い浮かばなかった。


「……鞠枝さん。少しだけここに居させてもらえませんか?……すみません。」


「顔色悪いわねぇ。……ほら、入って、入って。」


事情は分からなくても昨日のことで何かあったと察してくれたのだろう。鞠枝さんは何も聞かずに部屋に通してくれた。
< 237 / 344 >

この作品をシェア

pagetop