アイザワさんとアイザワさん
「で、樹ちゃん。例の物は買ってきたかい?」
源ちゃんが確認するように聞く。
私は家には昼前に行って、話だけをしてすぐに帰るつもりでいた。
家に戻るだけだから、気を遣うつもりもなかったのだけど、樹さんはそんなわけにもいかないだろ、と手土産を用意していた。
樹さんは、手に星の模様がちりばめられた箱が入った袋を持っている。中には『Milky Way』のケーキが入っているはずだ。
どうやらそれは、この前パンしか食べられず、ケーキに後ろ髪を引かれながら帰った源ちゃんからのリクエストらしかった。
源ちゃんは私がいなくても家に顔を出しているようだから、話し合いがどんな様子になってもケーキだけは食べられると思ったんだろう。
樹さんに買わせるなんて……ちゃっかりしてるんだから。
なんだか二人の様子を見ていると緊張感がどこかへと飛んでいくようだった。
一人は私よりも緊張していて、もう一人は適当すぎる。
5年ぶりに『家族』に会いに行く私のその足取りは、自分で思っていたよりも軽いものだった。
家に向かう道を一歩一歩進みながら、一人じゃなくて良かったな……と、あらためてそう感じた。