アイザワさんとアイザワさん
そんな事をふと思い出して……
木を見上げると、『お父さん』だけではなく、『お母さん』の木にも実は付いていなかった。
おばあちゃんが亡くなってもう誰も木を気にかける人がいなくなったから、『お母さん』も実をつけることを止めてしまったのだろうか。
「初花……ぼんやりしてるけど、平気か?」
気がつくと、樹さんが私の顔を心配そうに見ていた。少しだけ昔を思い出して止まってしまっていたらしい。
「大丈夫です。なんか、いろいろ思い出しちゃって……」
そう言いながら胸元に手を当てて微笑んだ。
手を当てたその場所には、樹さんからもらったネックレスが光っている。
「初ちゃん、大丈夫。翠ちゃんだって見ててくれてるよ。」
源ちゃんはそう言いながら背中をポンポンと叩いてくれた。
『清く、正しく、美しく』
私は魔法のコトバを心で唱えて、一つ深呼吸をした。
ぐっ、と背筋を伸ばすと不思議と心が落ち着いてきた。
私は、大丈夫。樹さんと源ちゃん二人と、おばあちゃんもついていてくれるから。
少し心配そうな視線を向ける二人に、にこりと微笑みを返すと、そのまま玄関まで歩みを進める。
家は私が暮らしていた時と何も変わらない様子でそこに存在していた。
私は、5年ぶりに自宅へと足を踏み入れた。