理屈抜きの恋
ただ撫子に出会ったことで俺は恋をすることがどういうことなのか知った。

俺の恋愛観を知る鵠沼は撫子に対して感情を露わにする俺を見て驚いたらしい。

だから、というわけではないけど、鵠沼は撫子に告白したことも、振られたことも、俺のせいで撫子が悩んでいることも教えてくれた。

だが、撫子を前にして平静でいられない自分に俺自身の戸惑いは隠せない。

美しく着飾った姿を見れば息が止まる想いになる。

ぎこちなく腕を組まれて上目がちに見られたら、名前を呼び捨てにされたら、それだけで気持ちが昂ぶり赤面してしまう。

嫉妬だって初めてした。

今だって俺がいない間に鵠沼がやって来て彼女に接近していたらどうしようかと気が気じゃないんだ。

「涼?おい。大丈夫か?」

大丈夫ではない。
早く帰りたい。
顔が見たい。声が聞きたい。触れたい。

「だあー!何で出張なんだー!」

「お前、やっぱり聞いていなかったんだろ!出張とはな…」



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