理屈抜きの恋
手を伸ばしても避けられてしまい取り返せない。
その間にお母さんと会話を始めた。
「こんばんは。本宮です。…あ、いえ、こちらこそその節は大変失礼致しました。…あ、いえ。いえいえ。…あ、そうです。…はい。…はい。それはまたの機会ということで。はい。…では責任持ってお送りしますので。失礼します。…ん。」
ん、と渡された携帯を急いで耳に当てるけど、聞こえてきたのは無音。
「嘘でしょ?お母さんと何を話したんですか?」
「帰りが遅くなるけど、責任持って送ります、って伝えておいた。だからほら、早く上がれ。」
手を引かれて家主不在のご自宅に上がると、広い玄関と高級そうな調度品に圧倒される。
でも不思議。
興奮していた気持ちが一気に鎮まる。
「この家、すごく落ち着く。」
「古い家だからな。田舎の家みたいだろ?」
田舎にしては高級感漂い過ぎだけど、畳のいい香りは副社長に初めて会った時に感じた懐かしい香りの正体だ。
ここで副社長が育ったのだと思うとすごく感慨深い。
そして誰もいないと分かっていても『ただいま』と言いたくなる気持ちが分かる。