理屈抜きの恋
「荷物はそこら辺に適当に置いて。これから飯作るから。」

対面式のキッチンに立った副社長はそう言うとシャツの袖を捲り、手を洗い始めた。

「え?本宮副社長が作るんですか?」

「君に期待はしていないよ。俺が作る。でも手伝え。」

なぜ料理が出来ないと分かってしまうのか、そこは疑問だけど、副社長の手際の良さはまるで料理人のようで、ただただ感心してしまう。

「どうしてそんなに料理が出来るんですか?」

「10年間、一人暮らしだったからな。自然と出来るようになった。」

そういえば以前は他社で経営のノウハウを勉強していたと言っていた。

「すごいですね。」

私は大学も会社も自宅から通える場所を選んだから一人で生活することの苦労を知らない。
お母さんは夜勤の時でもしっかり料理を作ってくれるから自炊さえしたことがない。

「惚れ直したか?」

惚れ直すもなにも、惚れっぱなしだ。
そんなこと言えないけど、横目でちらっと私を見るその視線だけで胸がドキドキする。

でも妙に意識してしまうのは私だけなのだろう。
余裕の副社長がうらめしい。

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