理屈抜きの恋
「うわ。靴に血が付いたら大変!」

靴は良い物を買うように、と小さい頃から言われているから、今回もそれなりの値段の物を、いや、いつもより高い靴を奮発して買った。

それが一回で汚れてしまうなんて悲しい。

こうなったら応急処置として、靴と踵の間にティッシュを詰めるしかない。
引き出物を床に置き、鞄からティッシュを取り出す。

続いて右足の靴を脱ごうと左足一本で立ったら、バランスが崩れてその場に崩れ落ちてしまった。

「痛ぁー!」

反対側の足を捻っちゃうなんて、本当に最悪。
これだけついてない事が続くとさすがに泣きそうになる。

開き直って両方の靴を脱いだら少し楽になったけど、立つ気力は沸かない。

まさかキスシーンを目撃してしまうなんて。
しかも相手はずっと最上くんのことを想い続けている小田先輩。

いや、そもそも、私なんかを相手にするような人じゃないと分かってはいた。
さっきは抱きしめられて耳元で囁かれてドキッとしてしまい、自ら誘いに乗ったけど、私自身、最上くんを同期以上に思ったことはないし、思わないようにしていた。

だからこうしてキスシーンを見せられても悲しいという感情は沸いてこない。
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