理屈抜きの恋
彼女は仕事の飲み込みが早いのだ。

秘書の仕事が総務課での仕事の延長にある、とは言っても、しっかりと経営術を学んだ俺のペースに合わせるのは至難の業。
それなのに彼女は先回りして資料やら書類を準備し、さらにはプラスアルファまでつけてくる。

それと記憶力が良い。

誰かと話す時は「〇〇さん」というように必ずと言っていいほど相手の名前を口にする。
それは一見簡単そうだけど、万が一間違えたら失礼に値するこの行動は記憶力に自信がないと出来ない。
しかも、その相手の趣味嗜好、特技、長所まで記憶しているから話題が尽きないし、その場にいる誰かが変なことを口走りそうになるものならさりげなく相手の情報を入れることも出来る。

一体どこでその情報を手に入れたのかと思ったら、彼女の多趣味が理由だった。

将棋、囲碁、麻雀、競馬、盆栽の本が辞書と同列に並べられている机を見て「オヤジ的な趣味だな。」と言ったことがある。

さらには机の中には常時20本近い映画や韓国ドラマのDVDと20冊近い文庫本が収められているのを見た時は「レンタル屋かよ」と突っ込んだ。

でも、その本やDVD、娯楽など、彼女への誘いを目的に職員が俺の部屋にやって来ることは俺にとって良い方向へと働いた。

彼女が俺の部屋に誰かが来る度に俺と話しをする機会を設けてくれるからだ。
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