囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~
「機会があったらノルマ達成に協力してあげてもいいけど」
「いや、本当頼むよ」
「じゃあな」って片手を上げてお店を出て行く聡史の後ろ姿を眺めてから、手元に残された名刺に視線を落とす。
〝曽山聡史〟
お店の名前とお店の電話FAX番号、そして個人の携帯番号が書かれている名刺を眺めて、ああ本当にあの家電量販店で社会人として働いてるんだなぁと不思議な気持ちになりながら、それをベストの胸ポケットに入れた。
席に戻るとすぐに、手塚先輩がぐるりって椅子ごと振り返って「何もらってたの?」とウキウキしながら聞いてくるから、苦笑いで返した。
「駅の向こうの家電量販店で働いてるらしくて、その名刺をもらっただけです。
何か買う時にはウチで買ってくれっていうただの営業ですよ」
「久しぶりにあった元カノ相手に営業って、気の利かない男ねー」
「まぁ、場を和めようとして気を使ってくれたのかもですけど」
と、うっかり答えてから、さーっと血の気が引いていく音がした。
ものすごく簡単な誘導尋問に引っかかってしまった私を、手塚先輩がキラキラした目で見てくるからそろりと目を逸らした。
「今日さ、決起集会じゃない? 高岡飯店で」
これから始まるボーナス商戦に向けて、うちの銀行も金利優遇の定期預金を期間限定で新たに用意した。
決起集会っていうのは、より多くの定期を、そして融資申し込みをしてもらえるように頑張りましょうっていう意味合いを込めた、体のいい飲み会だ。
それは支店ごとに行われるのだけど、うちの支店の場合は、取引先でもある高岡飯店っていう焼き肉屋さんで行うのが毎年お決まりで。
今年も例にもれずそこで行われる決起集会は、ほぼ強制だからパート職員以外は全員参加の予定で……もちろん私も手塚先輩も参加する事になっている。