恋した責任、取ってください。
 
部屋に帰ると、お風呂から上がったばかりらしい、くつろぎスタイルな格好をした弥生が、首にタオルをかけ、今まさに冷蔵庫から缶ビールを取り出しているところに遭遇した。

チャッカ、チャッカとフローリングの床を鳴らしながら自分の寝床に向かうもんちゃんは、どうやらもう眠たい様子で、相変わらず自分の欲求に従順だなぁ、と少し羨ましくなる。


「お帰り。お姉ちゃんも飲む?」

「ただいま。うん、ちょっとだけね」


言うと、もう一本缶ビールを取り出した弥生は空いている手で器用にグラスを2つつかみ、リビングで待つ私のところに持ってきてくれた。

弥生の態度は、今のところいつもと変わらず普段通りに見えるけれど、きっと佐藤さんと何もなかったとは思っていないだろう。

プシュッとプルタブを開け、ビールをグラスに注いでいる弥生に、意を決して口を開く。

こういうのは隠していても仕方がない。


「あのね弥生、佐藤さんの好きな人、私だった」


ピクリと反応した弥生は、一瞬だけビールを注ぐ手が止まったものの、あらかじめ覚悟していたことなのか、すぐに横顔をふふっと緩める。


「散歩に出かけるときに分かっちゃったよ。どうりであたしに、ちっともなびいてくれないわけだよね。お姉ちゃんの二番煎じじゃダメに決まってる。それで? 返事はしたの?」

「うーん、言うなって止められた。佐藤さんってやっぱりいい人だよね。結局、頑張れって応援してもらった形で今日は帰ってきた感じ」

「お姉ちゃんはどうしても岬さんなんだ?」

「……そうだね。思いがけなく今日またフラれちゃったけど、大地さんのことを考えると、ぎゅって抱きしめたくなるんだよね」


そのタイミングでコト、とグラスが置かれる。

私のぶんのそれを一口流し込むと、麦芽のなんとも言えない味が口の中いっぱいに広がって、やっぱりちょっと苦手だな、と条件反射のように眉間にシワが寄ってしまった。
 
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