恋した責任、取ってください。
 
身を乗り出すようにしてコートを見下ろしていた悠斗くんが不思議そうに瞬きをする横で、でも、と私はふと思う。

もしかして大地さん、葛城さんを煽ってる……?

すると案の定、にわかに浮き足立つホーネット側から葛城さんが進み出て、審判を挟んで大地さんと対峙した。

特にこれといって何事もなく各々ポジションについたブルスタ側を見ると、どうやら大地さんがジャンプボールをすることは、あらかじめ知っていたらしい。

落ち着きを取り戻したホーネット側の選手たちが葛城さんの後ろでポジションを取る中、ここからでは何を話しているか聞こえるはずもないのだけれど、二言三言、言葉を交わして、それから両者がふっと不敵な笑みを浮かべ合う。


葛城さんに会いに行ったのか、もしそうなら、どんな話をしたのか。

高校時代に葛城さんとともに想いを寄せていた、今は葛城さんの奥さんになった彼女に会いに行ったのか、もしそうなら、何を話したのか。

大地さんからは何も語られてはいないけれど、でも、今のでわかる。


「悠斗くん」

「なに?」

「今日は大地さんにとって、すごく特別な試合になると思うの。きっと、めちゃくちゃ格好いいから、ちゃんと見ててあげて」

「……?」


悠斗くんにはわかるかな、まだわからないかな。

すごく先の話になるかもしれないけど、もし悠斗くんがどうしようもなく苦しかったり辛かったりする出来事に直面したら、そのときはどうか、今日の大地さんの姿を思い出してもらえたら嬉しい。

傷ついて、何万回と後悔して、立ち上がれなくて、それでも進み続けるしかなくて。

そうやって自分に打ち勝った人や困難を乗り越えた人は、何よりも強くて格好いいの。

きっと悠斗くんの道しるべになると思うよ。


「ふふ」

「あ。笑ったな! なっちゃんだけわかっててズルい!」
 
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