汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
 僕は夜桜さんのことが好きで、憧れの人ではあるけれど、……彼女の詳しい過去は、分からない。彼女の両親が人狼に食い殺されていただなんて、初めて知った。

 少し悲しみがこもった瞳を僕に向けた夜桜さんは、乾いた笑いを漏らしながら投げやるように話す。


「信じられますか? 犬飼くん」

「?」

「さっきまで生きて、笑って、私とお話をしていた母と父が、横たわって、血まみれになって、ぐちゃぐちゃに食い千切られて、死んだんです。私に『逃げろ』と訴えていた2人の目。私を見つめる、あの、黒くて丸い、何もうつさない空虚な目……。私はあの時、何も出来なかった……」

「……」


 僕は何も言わず、ただ黙って彼女の言葉を聞いていた。何を言ったらいいのか、分からなかった。

 風子も人狼に殺されたと報道されて、実際にその線で警察やSHWは動いてくれているんだろうけれど、今ここで気遣うような言葉を投げ掛けたら、夜桜さんに同情されていると思われるのだろうか。

 僕は憧れの彼女に、何ひとつうまい言葉を投げ掛けてやれないほど、どうしようもない人間だ……。

 そんな僕の心情など分かるはずがない夜桜さんは、再び怒りや憎しみをこめた瞳で神谷くんの後ろ姿を見やる。さっきよりより一層、その感情の強みは増しているように見えた。……もう、その感情しか宿していない目、だ。


「そんな人狼を目の前にして、恐怖なんて感じていられません。恐怖を感じている場合じゃ、ないんです!」


 キッパリと言い放つ彼女。夜桜さんは、強いなぁ。僕は怖くてたまらないというのに、彼女は逃げることはせずに真っ直ぐに立ち向かおうとしている。
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