晴れ、のち晴れ
「夢香から向かえに行けと脅されて…」
そう言って葵は、携帯を開いてあたしに見せた。迎えに行かないとお兄様の夕食が唐辛子の中に沈むわよ、などと物騒なことが書かれている。
…夢香らしいが。
「それよりどうしたんだよ、その格好」
「いや、ちょっと転んで、ははは」
あたしの乾いた笑いを無視して、葵は綺麗に折り畳まれたハンカチで、あたしの顔を拭いた。
「泥、ついてる」
「ああ、ありがと…」
「いじめか?」
「いや、自分で転んだ」
「転んでボタンが二つも取れたりしない」
「そういうこともあるって」
淡々と真実を明かすように葵があたしに尋ねる。葵の顔は無表情で何を考えているか読めなかった。
葵は無言のまま自分のシャツを脱ぎ、梨羽に差し出す。葵はシャツの下にTシャツを着ていた。
「何、これ」
「とりあえず、そこの影で着替えろよ、風邪引く」
葵はあたしにシャツを押し付け、あたしはそれを思わず受け取ってしまった。
「あ、ありがと」