いい加減な恋のススメ
訪れる沈黙。どちらも口を開こうとはしなかった。言葉を発したら負けだと思っていたから。
倉庫から出ようとしても彼が塞いでいて通れない。だから私はずっと目の前の本の背表紙を見つめていた。
先に沈黙を破ったのは彼の方だった。
「まだ怒ってんのかよ」
あ、もうこの人絶対に許さない。私はそう決めるといつものように大声で怒るわけでもなく、ただ冷たい目で彼の顔を見つめてから再び視線を元の場所へと戻す。
まだってなに?だって謝って貰ってないし怒ってるでしょ。男の人って時間を空ければいいやなんて思ってるんだろうな。最低。
「(最低)」
私は気になった目の前のタイトルに手を伸ばした。
と、
「ごめん」
聞き慣れないその言葉に胸が今まで以上に胸がぎゅっと締め付けられた。
狡い狡い、狡い狡い狡い狡い狡い、狡い。
ズルい。
そんな言葉ばっかりが頭の中を埋めた。
私が視線を向けると彼は困ったように棚に凭れていた。
「お前がまさかあそこまで根詰めてるとか思ってなかったし、何でも平気に出来るやつだと思ってたからお前にとったら辛いこと言っちまったよな」
「……」
「……すげー、反省してます」
幸澤先生はそう言うと辛そうに目を閉じた。