いい加減な恋のススメ
な、何か恥ずかしい。
「もう着く」
『本当?折角だから会わせてよね、アンタの彼氏とやらを』
「それはちょっと……」
難しいかな、と不意に昇降口の方へ視線を向けたその時、私の視界にある人物が映った。
昇降口のところからこちらを眺めている黒髪の男性。
あれって、
「幸澤先生……」
『え、何?幸澤?』
「あ、っ……」
その瞬間、余所見をしていたからか前を歩いていた人の背中にぶつかり、一瞬彼の姿を見失ってしまった。
再び昇降口の方へ目を向けるがそこに幸澤先生の姿は無かった。
嘘、幻?
『幸澤がいたの?』
「う、ううん……私の勘違いみたい」
『ふーん、てか今何処よ』
「もー、本当に直ぐなんだってば」
私は再び前に進むことを再開しようとする。
するとスマホを持っていない左腕を後ろから強く引っ張られ、私は体ごと後ろへ向かされてしまった。
何だ!?、と驚きの表情でいると私の目に映ったのは幻だと思った彼であった。
「こ、幸澤先生?」
「……」
何故ここに。というよりもやはり私がさっき見たのは本物の幸澤先生だったと言うことだろうか。
彼は私のことを掴まえると安心した顔で息切れを繰り返す。ここまで走ってきたのだろうか。