いい加減な恋のススメ
隣を歩く幸澤先生が溜め息を吐く。
「やべーな、これテスト間に合うか」
「そんなになんですか?」
「あぁ、文化祭準備始まると午後の授業無くなるからな。お前が学生の時もそうだったろ」
「……」
覚えてません、と言うと彼は「あっそ」と呟いた。なんなのだその態度。
「それに準備遅れると普通に考えてそのクラスの担任の授業の時間を削られるからな」
「でもまだ何するかも決まってませんよね」
「……」
擦れ違う生徒に声を掛けられ返事をすると、隣で「なんでこの職業就いたんだろ」と嘆きの声が聞こえてきた。
本当にそうだよ、何で教師なんてなったんだろう。幸澤先生にはあんまり合っていない気がする。
それに、先生じゃなかったら会うこともなかったのに。
「まぁ、準備手伝って。文化祭の記憶についてはお前の方があるだろ。俺は何年前だと思ってやがる」
「……はい、分かりました」
「……」
彼が口と足をピタッと止めて私の方を見たのでその視線に戸惑いながらも「何ですか」と声を漏らす。
と、
「やっぱ、なんか朝より機嫌良いな」
「は!?」
「あんなに怒ってたのに」
「っ……」
私が「何で幸澤先生にそんなこと言われなきゃいけないんですか!」と返すと彼は顔の向きを変え、再び足を動かし始めた。
「別にー、あの安藤せんせーが俺に素直に従うので」
「っ……」
「何か良いことがあったんじゃないかと」
軽く後ろを振り返った彼に何も言えずに、私はおいてけぼりにされた。
何か、見透かされてる気がする。