まどわせないで
「くすぐったいんですっもう、そんなくっついて耳元で話さなくても聞こえま――」

 顔を真っ赤にして訴える小麦の唇を、また陸は塞いだ。
 今度は触れるだけのキスではなく、唇を押しつけたまま顔の角度を変えてくる。陸は、

「うるさい」

 キスの合間に話すという離れ業を使ってきた。余裕そうな陸に対し、小麦はだんだん苦しくなっていく。キスが苦痛になってきたのだ。
 如月さんは、なんで平気なの?
 キスしていると、呼吸が出来ない……!
 顎に触れている陸の手から逃れ、頭をのけ反らせて大きく空気を吸い込む。

「如月さん、死んでしまいそうです……!」

 ハァハァと、深呼吸を繰り返す小麦に、キスの間、息を止めていたのか? 陸は疑問を感じた。
 その苦し気な様子の小麦から判断して、あることに思い当たる。
 そうか。彼女は、キスの経験が浅いのだ。
 キスの合間に、呼吸をすることがわからないくらいに。
 珍しいくらいに、無垢。
 世慣れた女ばかりを相手にしてきた陸には、小麦の反応が新鮮だった。
 世の男どもはよく放っておいたな。彼女はこんなにも可愛らしい面を持っている。
 そこまで考えてハッとした。
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