吸血鬼の翼



勝手口の方向からキィキィと扉の軋む音を耳にする。
恐らく、クラウはそこから侵入したのだろうとイルトは悟った。

「……“どうやって”入った?」

イルトは掠れた声でクラウに問いただす。
此処にはルイノが張った結界があった筈だ。
幾ら、クラウでもルイノの結界を破る事等、有り得ない。

「さぁな、知らない。」

「ふざけ……るなっ…」

知らない訳がない、こうして入って来ているのだから何か在る。
あまり余裕のないイルトはギリギリの所でクラウとの間合いを取っていた。

「観念しろ吸血鬼、さもないと仲間を殺す。」

「どういう意味だっ!?」

その言葉を聞いた瞬間、朱い瞳を見開き、相手の姿をはっきり捉えた。
気が高まったお陰なのか、一時的に感覚が正常に戻った様だ。

「…外に出てみれば分かる事だ。」

「!!?」

イルトはクラウを押し退ける様にその場を走り抜けて、勝手口から、外へ飛び出した。

慌てて2階を見上げて彼等の安否を確認する。
すると、ラゼキとソウヒの部屋の窓は半壊されていた。

窓の下には、焼身した複数の半獣人達が息絶えている。
そして、窓と同じくらいの高さの木の枝には黒髪の青年が立っていた。

更に部屋からは燃えたのだろうか、黒煙が大きく立ち上っている。

「何なんだ…?」

あまりにも唐突な出来事に愕然としたイルトは気が抜け、その場に座り込んだ。

クラウも外へ出ると半壊した部屋を見上げる。
部屋の状況を確認すると、その視線を更に屋根の方に向けた。

「おい、これじゃ人質にならないじゃないか…」

「…?」

イルトは暗がりの所為もあってか、クラウが誰に喋り掛けているのか、分からなかった。

クラウの目線を辿りながら、目を凝らして、屋根の上を見てみると其処には誰も居ない。

理解に苦しんだイルトはクラウを問いただそうとして、立ち上がった。

「誰に喋りかけてる…?」

「………。」

クラウは無言のまま、イルトを見据えた。
否、イルトではない、その背後へ視線を送っている。

クスクスと耳障りな声が聞こえた。
思わず体が震える。
この感じは何なんだ?
今まで自分が避けてきた様な気がする感覚…

鼓動が段々と激しくなるのをそのままに後ろを振り返る。

そこには、此方を見て、可笑しそうに嗤(わら)う男が立っていた。


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