吸血鬼の翼
風は一層、辺りを強く吹き荒んでいる。
それは、まるで空気が怒っているかの様だった。
それに男の酷く波のある気。
イルトは“正体”の分からないものに後退りする。
「おい、アレは何だ?」
クラウはラゼキ達の寝室の窓を指差してもう一度、男に尋ねる。
「あ~アレね、僕じゃないよ。向こうの奴等が勝手にやったんだよ?」
興味なさそうに口を開くと、2階の方を見向きもせず、その方角はイルトへと向けられた。
何だ、この男は…
その男の耳を見ると耳先が尖っている。
半獣人だ…
見た目だけをいえば、年の頃はイルトと変わりはない。
紫の前髪が邪魔で相手の表情が分からない。
でも、俺はコイツを知っている…?
自分でも何故そう思うのか、不透明だけれど。
男が一歩一歩と前進する度にイルトは後退する。
コイツは危険だ。
ただ、それだけは分かる。
「少しは足掻きなよ。面白くないなぁ~」
男はイルトの態度を嘲笑い、また一歩近づいた。
そして、イルトがもう一歩という所で背が壁に当たり、逃げ道を失ってしまう。
それを見て、クスクスと笑う不気味な男は徐々にイルトとの距離を縮めていく。
「捕まえたよ。“赤子”…」
「…え。」
イルトは男の言葉の意味を知るのに数秒も掛からなかった。
ふと、風が男の前髪を靡かせる。
その隙間から見えた瞳の色は血の様な深紅だった。