吸血鬼の翼




イルトは自分を狙っている者が存在するのは承知していた。
事実、ルイノに出会うまでの旅は酷いものでしかなかったのだ。

“あの事件”の後、逃げ延びる事に成功はしたものの、周りの情報が早くて見つかり、殺され掛けた事もある。

仲間だと思っていた人達が、俺の素性を知る度、離れていった事もある。

俺を知っていた者達も居たが、最後には人間や半獣人に情報を売り、裏切られた事だってあった。

そんな毎日にヒトを疑う事も覚えた。

そして、数年ずっと追われ続けながらも生き延びて来たのだ。

町や村、人々が集まる所は出来るだけ避けていた。
食べ物に困ったりした時もあったけど何とかして来た。

そんな俺にも転機が訪れる。

森の獣道で死にかけていた俺を見つけてくれた。
…優しい声。

心身共に荒んでいた俺を救ってくれたのがルイノだ。

それから、自分を脅かす存在が途絶えた。

無論、それはルイノの御陰だと思ったし、町の人達が情報を外へ洩らす事はなかったのだと感謝していた。

国境を越える事もあったが、なるべく素性を知られない様に注意深く隠していた。

もしかしたら、クラウは“あの事件”を知る誰かから俺の事を聞いたのかもしれない。

だが、何故クラウは俺が此処に居る事を知ってた…?

クァロナ国を出る寸前まで、尾行されてないか慎重に周りを確認したので、そこから足がつくとは思えない。

……もしも、自分では察知出来ない大きな存在が居たとしたら。

ソレは人間か半獣人か、或いは魔物なのか。

推定だが、その筋で行くのであれば…

予め、こうなる様に用意されていたのか。

この男を探って行けば、何かが分かるかもしれない。

イルトは心穏やかではないが、出来るだけ男を綿密に観察する事に集中した。



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