吸血鬼の翼
「あ~あ…殺しちゃった!ダメじゃんかぁ~ラグザム」
「すまない、咄嗟の事で手加減出来なかった。」
いつの間にか、ロヴンの直ぐ後ろには長身の厳つい半獣人が右腕を血で染め、守る様に立っている。
首領を殺したのは、言うまでもなくこのラグザムという半獣人なのだろう。
「まぁ、いいや。使えなかったしね。」
転がっている首領の骸をまるで壊れた玩具の様に眺めていた。
そして、その横にしゃがみ込み、首領の腹部の穴にロヴンは掌を入れ、血を掬うと舌で舐めとっている。
その一部始終を見ていたイルトは身の毛が弥立(よだ)った。
…狂ってる……
いや、狂ってるのは…
「マズイっ!やっぱり飲むんなら、人間の血に限るね。…そういえばさぁ~赤子、血飲んでんの?」
「………。」
ロヴンは口元に飲み切れなかった血を付けてイルトに問う。
イルトはロヴンから視線を外し、青ざめた表情のまま、口を閉ざしていた。
ロヴンは訝しげにイルトを眺めた後、クスリと小さく笑い出した。
「いくら、混血児とも言えど、血を飲まないとヤバイんじゃないのぉ?」
指に付いた血を綺麗に舐めとるとロヴンは立ち上がり、物陰に足を進めた。
その行動が読めないイルトはただ、不思議そうに眺める。
そして、再び此方に帰ってくると左手には何かを抱えているのが見えた。
「……なっ」
月明かりが映し出したその“何か”にイルトは思わず絶句する事になる。
膝下より少し丈の長い水色のワンピースと天然の長い黒髪に三つ編みをした少女。
その“何か”とは間違いなくリリアの事だった。
ロヴンはリリアをイルトの元へ軽々と投げ付ける。
「……リリアに何したんだ。」
「別にぃ?ただ、お腹空いた時にと思って拾って来たんだよ~アハハッ!安心しなよ、眠ってるだけだから。」
リリアの様子を見ると、確かに怪我はなく、寝息だけが聞こえて来た。
その瞼は深く閉ざされていて、起きる気配はない。