吸血鬼の翼




「ホラッ折角、あげたんだから飲みなよ!」

ロヴンの飲む事が当然の様な口振りにイルトは怒りを覚えた。
暖かい体温、小さく鼓動する心臓、規則正しい寝息…優しい少女は生きている。
人間をモノみたいに扱うロヴンを強く睨みつけた。

「何?その生意気な目、気に入らないなぁ…」

「……人間を獲物みたいに言うお前には分からない。」

リリアを庇う様に自分の背後にある壁に凭(もた)れさせた。
イルトはゆっくりと立ち上がると空中に魔法陣を描き始める。
指に宿る青い蛍光色の光は円となって軌跡を残す。

それを見ていたラグザムはイルトの元へ飛び込もうとするが、ロヴンに右腕で制止させられる。

「ロヴン…!?」

「大丈夫だって見てなよ。」

「フリィリア!」

イルトは両手を合わせ、完成した魔法陣に向かって呪文を唱えた。
呪文に共鳴するみたいに光は強さを増して、魔法陣から冷たい風がロヴンに向かって強く吹き荒ぶ。
それはロヴンを瞬く間に包み、竜巻を起こしながら凍っていく。

風が止む頃には、ロヴンは魔法によって、凍らされていた。
ロヴン本人からも何の反応もない。

月明かりに照らされたソレは酷く綺麗に見えた。

溶ける様子がない所を確認したイルトは取りあえず、後ろに置いていたリリアを運ぼうと両手で抱え上げる。

だが、それは耳に入って来た割れる音により、中断されてしまう。

素早く振り向いた瞬間、氷を破って飄々と立っているロヴンの姿があった。

まるで、いつもと変わらない眠りから醒めたみたいに…

「もう終わりかな?案外ツマんないね、赤子。」

「……ッ…」

ロヴンの平然とした態度に、心底、恐怖を感じたイルトは瞠目する。

「…少し、嘗めてたみたいだ。」

「ふぅん、赤子の癖に何様なの?」

ロヴンの深紅の瞳は先刻より禍々しい強い光を宿した。
そこに居るだけで圧迫されそうな凄まじい気。
どうやら、イルトはロヴンの機嫌を損ねてしまった様だ。



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