吸血鬼の翼



暫く沈黙した状況が続いた。
何も言えない美月と何も言おうとしないイクシスがそこに居るだけ。

何で言葉が出て来ないの?
イクシス君は真剣に言った訳じゃないかもしれないのに。
適当に答えれば良い事じゃない…

動揺する美月の耳にまた、あの嫌な時計の針の音が耳に届いて来る。

カチカチカチ…

何か嫌なのか分からないけど、聞きたくない。
今すぐ、耳を塞ぎたい。
誰か、お願い…私は…

「……っ…」

床に着いていた手の平をギュッと握り締める。

何を話せば良いか分からない。気持ちが胸の中で溢れるだけで、言葉になって出て来ない。

何時から、こうなった?

頭の中が混濁してて、気持ち悪い。
飲まれそうになる何かに怯える。
そこから直ぐにでも消えてしまいたくなる。

何から逃げてるの?

一体、何カラ…?

「…みづき、ダイジョウブ?」

「うん、平気…ちょっと眩暈がしただけだから」

そこで漸く、口を開いたイクシスにハッと我に返った。
まだ脈打つ波は不安定だけれど、それを悟られまいと美月は少しだけ笑う。

そんな美月にイクシスは何も言わず、ギュッと両手で抱きしめた。

「…イ、イクシスく…」

「…疲れてるんでしょ?…こうしててあげるから…」

イクシスが背中に回した腕を少し強くすれば、美月の耳は彼の胸元に当たる。

トクン…トクン…

命の音がする。
懐かしい様な、暖かい温度。
そういえば、イルトにも宥める様に抱きしめて貰った事があったなと美月は少しだけ涙を浮かべた。


< 139 / 220 >

この作品をシェア

pagetop