吸血鬼の翼



あれから少し落ち着いた美月は疲れていたのか、寝台に横になって眠っている。

イクシスは美月の眠る寝台に凭れて再び窓の外を見やる。
日はすっかり落ちて闇が広がっていた。

じわじわと侵蝕する静寂が空間に漂っている。

静かな場所。
イクシスは先刻の出来事を思い出していた。
寂しい所なんだと思った事をイクシスはそのまま彼女へ言ったのだ。

すると美月は他愛もない言葉に酷く反応し、怯えている様子だった。
間違いなく、何らかの陰が美月を覆っている。
縛り付ける何か…

其処まで思考を巡らせるとイクシスはハッと我に返った。

何故、彼女の事を知ろうとするんだ?

一時的に共に居るだけ。
そう、言ってしまえば寄り道みたいなものだ。
幾ら、あの司祭と重ねて見えたとしても彼女はそのものじゃない。
嵌るな…深く関わっちゃいけない。

イクシスはそう自分に言い聞かせて、追及する思いを払拭する様に首を左右に振った。

顔を両膝に埋めると布の擦れる音が耳に入って来る。
美月が寝返りを打っているのだろうとイクシスは気に留めずに瞳を閉じる。
自分も少し疲れているんだと思い、そのまま眠りに就こうと意識を手放そうとする。

「……イ、ルト…」

「…!」

彼女の口からあの吸血鬼の名前が出て来たので思わず、朦朧としていた意識を呼び戻す。
美月を振り返れば、瞳は閉ざされていたので寝言の様だった。
その寝顔は悲しく歪んで、瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

「……みづき…」

君にとってアイツはどんな存在だったの?

泣く程の奴だった?

命を賭ける位に…

少しの疑問と小さな興味に戸惑いを感じつつも、美月から逸らさないで彼女の涙を自分の指の腹で拭ってやる。

どうして、皆…アイツを選ぶ?

悲しくなったり、辛かったりするのに。
実際、美月もこうして泣いているじゃないか。
ルイノだって、あんなに酷い怪我までして。

一体、ドコがそんなに良い…?

イクシスには美月達の気持ちが理解出来なかった。

そうイルトはイクシスにとって、大切な人の隣に居る疎い存在だから。

何時まで考えていても、埒が明かないと思ったイクシスは思考を止めて再び寝台に凭れる。

気怠そうに両足を抱えて、イクシスは夢の中へと落ちていった。



< 140 / 220 >

この作品をシェア

pagetop