吸血鬼の翼
* * *
『……さん…わたし…きょう…』
誰?誰の声だろう。
拙く喋る懐かしい声。
セピア色に映る光景に美月は不思議に感じながらも傍観していた。
まるで一つの映像でも見てるみたいな気分。
台所で小さな女の子が背伸びしてる。
誰かの顔を窺い、褒められたい気持ちでいっぱいの様子だ。
だが、その人は振り向く事せず黙々と包丁で大根を切っている。
それでも、女の子はめげずにその人の服の裾を引っ張った。
『……せんせいに、えがじょうずって…ほめられたんだよ』
そう言って鞄から取り出した画用紙をその人に見せようとする。
やはり、振り向く事はなく何の反応も返って来ない。
まるで、人形みたいにその瞳には何も映って無い。
『…なんで…みてくれないの?わたしがきらいなの?』
何も言わないその人に痺れを切らしたのか、とうとう女の子は泣き出してしまった。
その咽び泣く声に美月は堪らなくなってその状況から目を逸らした。
嫌だっ見たくない…!
女の子の泣く声が耳に纏わりついて離れない。離れてくれない。
何でこんなもの見せるの?
私が何したって言うの…?
美月は耳を塞いで膝から崩れ落ちた。
激しく打つ鼓動とは相反して、この空間は寂しいものだ。
いつの間にか、先刻の映像が消えていて代わりに真っ暗な闇が辺りを包み込んでいた。
此処には誰の気配もなく、ただ美月だけが存在していた。
「…な…んなの…?」
蹲った美月は動揺で気持ちが乱れ、瞳を揺るがす。
君ハ、独リ。
誰モ君ノ事何テ見テイナイヨ―
ズット、ズット
君ハ死ヌマデ独リ…
頭から響いて来る声に美月は驚愕した。
自分以外、誰も居ないこの空間でしかも、声は自分の中から聞こえて来たからだ。
人の声とは言い難い機械的なものでそこから暖かさは感じ取れなかった。
「誰?…誰なの」
震える唇から発せられた言葉は頼り無げに空気に溶けていく。見えない相手に向かって出た言葉に返事はない。
ふと前を向けば見覚えのある後ろ姿が2つ。
5メートルくらい先だろうか、美月はその人影を瞳に映した。
「…イルト、ラゼキ!?」
何でこんな所に?
もしかして、これは夢なの?
美月は頭の隅でそう思った後、緩慢に立ち上がる。