吸血鬼の翼
「…取り敢えず、此処にいて。ちょっと下を見て来るから」
まだ紅潮の色を頬に残しながら、美月は部屋のドアノブへ手を掛けた。
美月の言葉に頷いたイクシスはまだ何処かぼんやりとしていて何だか心配だ。
そんな彼に苦笑いを浮かべて、部屋を出る。
人が2人くらい通れるかどうかの階段をゆっくりと降りた。
「…お母さん?」
下へ辿り着くとリビングを見渡すが昨日と同じ様に物静かな空気だけが漂っている。
残業、朝までだったのかな。
こういう事は別に珍しい訳ではなかった。
今までだって母が夜勤明けに帰って来た事なんて数え切れない程。
酷い時は何日も家を空けている時だってある。
そんな日々に、慣れっこになっている自分に気づいてつい苦笑が漏れた。
「…何か作ろうかな。」
昨日帰ってから、お菓子しか口にしていない体は空腹を訴えている。
イクシスもあれから何も食べてないだろうし少し多めに作ろうと美月は台所へ足を運んだ。
「…えっと、目玉焼きと味噌汁に」
フライパンに油を引き、卵の殻を割ってそこに中身を落とす。
目玉焼きが出来上がるまでに昨日作った味噌汁を温めながら焼いた魚を皿に乗せる。
最後にご飯をお椀に入れる。
それらを手際よくやってのけると出来上がった朝食をダイニングにあるテーブルの上へ置いた。
「よし!簡単なものだけどちゃんと出来た…後はイクシス君を」
何となく気合いが入った声でドアへ向き直ると、そこにはまだ眠そうな目を擦って此方を見ているイクシスの姿があった。
何時の間にと美月は驚いたが、彼の所まで小走りで向かい椅子に座る様に促す。
「…何してたの?」
「ご飯作ってたの、口に合うと良いんだけど食べてみて」
イクシスは言われるが儘に椅子へ腰を下ろし美月の作った料理を不思議そうに眺める。
元々、イクシスは無表情な顔をしている為かどんな反応が返って来るか心配で美月は妙に緊張する。
「…これで食べたら良いの?」
そんな美月を余所にイクシスは傍にあった箸を難しそうに手に取った。
しかし、馴染みのない物に対して鷹揚な姿勢をみせるイクシスに美月は凄いなと思いながら頷いた。