吸血鬼の翼
「…イクシス君?」
ダイニングへ顔を出せば、そこにイクシスの姿はなく、代わりに空っぽになった食器が流し台に置かれてあった。
何処へ行ったのか、気にはなるけど食器を洗ってからで良いと思った美月はそれを洗い始める。
そうやっていると目の前にある窓がガタガタと揺れていた。
今日から本格的に寒くなると天気予報で見ていたが、風が強いとなると面倒だ。
「どうしようかな、今日…」
家に居るのも良いかもしれないが、イクシスと2人っきりというのは色んな意味で危ない。
それを回避したい為、美月は今日、1日の事を思い悩む。
その間にも手はちゃんと食器を洗い終えていた。
それを拭くと、食器棚に戻しイクシスを探す為にダイニングを後にする。
部屋に戻ったのかなと階段のある廊下を通過しようとして目の端に新緑色が映った。
反射的に振り向けば、リビングにあるソファにイクシスが腰掛けている。
全く、人の言う事を聞かないで部屋から勝手に出て来るし、知らない間にリビングで寛いだり…何て言うか…
マイペースよね。
内心、呆れた美月は苦笑しながらリビングへ足を進めた。
彼の掛けているソファの近くまで行けば、それに気付いた様子でイクシスは美月へ視線を移す。
美月は慣れない相手に戸惑ったが、努めて見つめ返すとイクシスは眠そうな表情を浮かべている。
心なしか、朝方よりはすっきりした顔になってる様な気がする。
あくまでもそんな気がするだけなのだけれど。
「……みづき、…ご馳走さま」
「え?ああ、うん」
一瞬、何を言っているのか、分からなくて疑問符が頭に浮かんだが直ぐに朝食の事だと理解した。
慌てる美月を後目にイクシスは視線を離すとぼんやり床を見つめている。
無気力。美月が感じたイクシスへの印象。
表面だけ見れば、何もする気がない様にも見える。
そういえば、何でこの子は“この世界”に来たのだろう。
昨日、聞いたのだが逸らされた事を思い出した美月はイクシスの横顔を見つめた。