吸血鬼の翼
「まぁまぁ、千秋…落ち着こうよ。」
「だってコイツが…」
「何でしょうか?食いしん坊千秋さん。」
美月が仲裁に入ろうとすれば、千秋の口から抗議の声が上がる。
しかし、それは見事に遮られてしまい、佐々木は態とらしい丁寧な口調で千秋を罵った。
それに益々、腹を立てた千秋が手を振り上げた。
「千秋、我慢して」
「離して美月!コイツを殴らなきゃ、気が済まないわ」
美月は息巻く千秋を後ろから何とか押さえ込む。
そんな千秋の頭を佐々木は軽く叩いた。
「…あのさ」
「何よ?」
先刻より声のトーンを下げた佐々木を千秋は訝しげに眺める。その事からして、少し様子が変だと気付いた美月は黙って話に耳を傾けた。
躊躇いがちに喋る佐々木に対して千秋の表情は一層、険しくなる。
「今日…」
美月は佐々木が何を言いたいのか、彼の頬が僅かに紅潮しているのを見て分かった。
最近、失踪事件で外は危険だ。
きっと放課後、一緒に帰るつもりなんだ。
察した美月は佐々木に心の中で頑張れと応援した。
「……でる…」
「え?」
不意に耳に届いた彼女の声に反応してそちらを見やる。
すると、あれだけ活気で溢れていた千秋の様子が一変した。
どういう訳か、顔を俯き何かを呟いている。
それを聞き取れなかった美月はもう一度聞こうと少し屈んでみせた。
「……呼んでる。」
「千秋?」
「何だ…どうかしたのか?」
その妙な千秋の言葉にやっと可笑しいと気付いた美月と佐々木は互いの顔を見合わせる。
一体、何が呼んでると言うのだろう?
皆目、見当もつかない美月はただ訝しげに千秋を見るしかなかった。