吸血鬼の翼
流石に佐々木も千秋の様子に戸惑っているみたいで声を掛けるのを躊躇っていた。
そうしている間に千秋の表情が次第に青ざめていく。
そんな彼女に美月は少し驚いたが、何より体調が気にかかる。
「千秋…取り敢えず、保健室に行こう」
休ませなくてはと思った美月は千秋の肩を自分の元に引き寄せ、彼女に歩く事を促した。
必死になって話しかけるも、千秋からは何の反応も見受けられない。
「俺も行く」
それを見た佐々木も心配なのだろう。
後ろから追って来る。
美月はコクリと頷くと教室を出て角を曲がる所にある階段を降り始めた。
千秋の表情を窺うが、そこから読み取れたものは異様な雰囲気だった。
虚ろな瞳をしているけれど、何処か一点を見据えている。
妄執に取り付かれているみたいな千秋の状態に美月は動揺を隠しきれない。
気持ちが揺らいだ所為で足が疎かになってしまい、思わずふらつく。
共倒れになる寸前の所で佐々木の手が空いている千秋の肩を支える事でそれを防いだ。
「…ありがとう」
「いや、別に構わねーけど。どうしちまったんだ…コイツ」
「私にも、よく…分からない」
突然の展開に頭がついて行けず、美月と佐々木は混乱するばかりだった。
先程と様子が変わらない千秋はただ“呼んでいる”と無機質に言葉を発している。
兎に角、今は保健室で休ませるしかないと思った美月は不安に駆られながらも足を前へ進めた。