吸血鬼の翼




「何でもその時の噂によれば、そこに住んでた人達が次々と死の流行病にかかり、伝染を恐れた住民はその土地を離れたって聞いたぜ。」

「何か不気味だね…」

佐々木の聞いた噂に美月は体の芯まで震え上がった。
想像しただけで、美月の顔色が真っ青になる。

「飽くまでも噂だぜ?それに信憑性に欠けるし、マジになんなよ。」

そんな彼女を見た佐々木は可笑しそうに笑い、淡々と歩いていく。
漸く機嫌が直ったらしい佐々木の表情に思わず、美月は安堵の溜め息を漏らした。

そんな2人の会話を後目に先頭をきって歩くイクシスの歩幅が段々と早いペースになっている。
美月と佐々木は慌ててイクシスの傍へ駆け寄った。

「イクシス君?」

「……近い」

恐る恐るイクシスに歩み寄った美月は彼の表情を窺う。
蒼い瞳は捉える様に真っ直ぐ見ている。
その視線を辿って美月はある建物に気が付く。

廃れた工場や他の建物より一際高いビル。

目測だけれど、30階くらいはありそうだ。

コンクリートで出来た壁はあちらこちらに亀裂が入っており、窓硝子はバットか何かで叩きつけられたのだろうか。破損している。
建物の中も明かり等、点いていないし、人の気配もない。
表面を見るだけでかなり傷んでいる事が分かった。
どうやら、此処は廃ビルらしい。

夜の所為なのか、より一層この廃ビルから異様な雰囲気が溢れていた。
他とは違う嫌な空気を漂わせている。
まるで、お化け屋敷の様だ。

話しに集中していたからか、こんな建物があったとは分からなかった。
佐々木も驚いているみたいで廃ビルに瞠目している。
そこに私達の探していた千秋が居るのか?
或いはそれを繋いでいる何かが──

美月は生唾を呑み込んで胸元の服を強く握りしめた。
イクシスや佐々木も聳え建つ廃ビルを真剣な表情で仰ぎ見た。



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