吸血鬼の翼




「ンだよ、此処…」

佐々木はいつまで経っても変わり映えしない屋内に苛立って、その辺に落ちてた金属の破片らしい物を蹴飛ばした。

「……何か、変だよね。」

変わり映えがないと言っても少し可笑しいと気付いた美月は改めて辺りを見る。

階段を使ったりして場所を移動しているのに何にも変わらない。寧ろ全く一緒の光景だ。
廊下には窓硝子の破片が無残に散らばり、壊れたロッカーや長机が荒らされた様に室内に転がっているだけ。

部屋やトイレとかは同じ構造なのかもしれないが、それにしても室内にある物の配置が酷似している。
しかし、それらとは相反して窓の外に目をやるとちゃんと階段を上がった分だけの高さはあった。

何処か矛盾の残る状況に美月は少し混乱しつつある。

先刻の入口で感じた妙な感覚といい、いつまでも変化のない屋内といい…出口のない迷路に居る気分になる。

「………近い……」

「え?」

此処に入ってから初めて声を発したイクシスに美月は少し驚きつつも、返事をした。

しかし、それに応える素振りはなく淡々と前進して行く。
美月と佐々木はイクシスの様子を不思議に思いながら後を追った。

廊下を右に曲がった所に階段の踊り場に出る。
そこでイクシスの歩くスピードが増した。
慌てて駆け寄ろうと美月が走った所でイクシスはピタリと立ち止まった。

「……来るな…」

「え?イクシス君、な…に、いって…!?」

訳が分からない美月はイクシスへ腕を伸ばした。
しかし、その瞬間、強烈な香の匂いが美月の鼻腔に突き、行く手を阻んだ。
慌てて右手で口と鼻を覆ったが、時既に遅し。

次第に視界がぐにゃりと歪み出すと眩暈がして、足に力が入らなくなり体を支えられなくなる。
美月は重力に従って、その場に膝から崩れる様に座り込んだ。



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