吸血鬼の翼
「離してよ、中に入って連れて来るから」

「……させない……」

お互い引く気配はないまま、堂々巡りになるばかり。
それを後ろで見ていたラゼキも舞台裏の扉まで歩を進める。


「もうっしつこいなぁ~分かったよ!」

振り解く素振りもしないロヴンにラゼキは少し違和感を覚えた。
嫌な予感。
こういうのばかりは当たってしまうものだ。
ロヴンは口角を上げる。

「その代わりに君の血を頂戴っ」

「……っ…」

その言葉を向けられたイクシスは目を見開いた。
あどけなさが残るロヴンの表情から放たれた条件。
何も言えないイクシスと苦悶の表情を浮かべるラゼキにロヴンはただ嗤う。

「だってねぇ~君、あの神父の眷属なんでしょお?きっと美味しいと思うんだ!」

「…………」

ロヴンは空いてる手の人差し指を口元に当て、瞳を爛々と輝かせる。
まるで子供が甘いお菓子を欲しがる時にする仕草だ。
そんなロヴンを前にイクシスの瞳は迷いの色を浮かべた。

美月達を助けてやりたいのに体が震える。
不安や逡巡が腹の底から湧き上がり恐怖へと移り変わっていく。

「そんなんどっちもお断りやっ」

この吸血鬼はイクシスが止めると分かってて、この行為に及んだのか。
それとも、ただ反応を見て楽しんでるのか。
どちらとも判断し難いロヴンの態度に困惑しながらも、ラゼキがイクシスに代わって拒否の意を出す。

「えぇ~!?我侭だなぁ、じゃあ僕も好きな様にするよぉ!」

深紅の瞳の瞳孔が鋭い先端の剣の様に細くなる。
その瞬間、禍々しい気が一気にロヴンから漂って来た。
息も許されない様な酷い邪気。それがこの広間に蔓延している。
圧倒的な気に当てられたラゼキは全身に鳥肌が立ち上がり、思わず歯を食いしばった。
イクシスも同様、何も答えが出ないまま固まってしまう。
その隙にロヴンはイクシスの手から逃れて、扉のノブに手を掛けた。


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