吸血鬼の翼
美月の目の前で悠然と立っているのはラゼキでも、イクシスでもない。
しかし、期待外れ所の問題でもなかった。

美月の薄茶の瞳に映ったのは紫の髪と深紅の瞳を持つ吸血鬼。
邪悪に歪んだ微笑みに美月は言葉を失う。
だって、イクシス君が大丈夫って言ってたもの。
必ず外に出すって…
こんな事、…ある筈がないよ。

美月はその場から動けないまま、座り込む。

ソレを見て可笑しそうに笑うロヴンは右手を美月に差し伸べる。

「さぁ、お姫様、僕と一緒に遊ぼうよ!」

言っている事は童話に出てくる様な可愛らしい小さな子供と大差はないが、美月はロヴンの手を取る程鈍くもなかった。

「君を壊したら、アイツ等はどんな顔をするのかな?」

「…や、だ…」

深紅の瞳が美月を捕らえて逃がさない。
ロヴンの全てが恐ろしく見えて美月の瞳から自然と涙が滲む。

「まだ泣いちゃダメだよ?だってこれからでしょ!」

逃げ場所がないのを分かっていても壁に体を押しやる美月は首を左右に振って拒否する。

ジリジリと詰め寄るロヴンに美月はただ今の状況が嘘だと願うしかなかった。

「……止めろ…」

「イクシス君!」

不意にロヴンの背後から、聞き知った者の声が美月の耳に届いた。
完全に扉を開けた事でそこから月明かりが入り、イクシスの表情が窺えた。

顔面蒼白な顔色に息が上がっているのか、少々呼吸が乱れている。

必死に守ろうとしてくれているんだ。
何も出来ない…こんな、私の為に。

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