吸血鬼の翼
美月は両手を頬と額に押しやって愕然とする。

何が起きてるの、これは悪い夢?

それなら、どれだけ良かったのだろう。
貫通した爪はゆっくりと引き抜かれ、イクシスはそのまま床へと倒れこんだ。

「……イクシ…ス君…」

美月は震える体でイクシスの元へ駆け寄り、傷口の所へ手を伸ばす。
イクシスの息は荒く、脂汗が額から滴っている。
紅がイクシスの薄紫の服を染み渡って行く。
広がって浸食していく。

「ラゼキ…!イクシス君がっ私、どうしよう…」

美月は涙声で近くに伏せていたラゼキに呼び掛ける。
私の所為だ、私がイクシス君を…
真っ青になってペタリと座り込むとイクシスを抱きしめた。
ラゼキも呆然としていたが、直ぐに我に返り、身を引き摺る様にして2人に近寄った。

「…アホや、ホンマに」

イクシスの瞳は虚ろに上を見ていた。
美月やラゼキに視線を送る事はないが、口をゆっくりと開く。

「……ごめん、……ちゃんと守れなかっ…」

「もういいから、喋らないで…イクシス君」

蚊の鳴く様な声に美月は益々、瞳いっぱいに涙を溜める。
ラゼキも遣る瀬ない表情を浮かべ、拳を握りしめた。

「死んじゃうのかな、邪魔なんかするからだよ…良い気味だ」

ふとロヴンの皮肉めいた言葉が美月やラゼキの耳を襲う様に放たれる。

死ぬ…?
イクシス君が死ぬの?

美月は涙を頬に流したまま、拭わずにラゼキに消えそうな声でそう呟く。

「アホか、絶対に死なせたりせえへん!」

ラゼキは手の平に微弱だが、白い光を宿し詠唱を始めた。
その光は触れた傷口からイクシスの体中へと伝わり、ゆっくりと包み込んでいく。

ロヴンが歩み寄って来るのにいち早く気付いた美月は緩慢に立ち上がった。
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