吸血鬼の翼
美月は少しだけイクシスを見やった。
出血で気を失ったのか、瞼を閉ざしている。
ラゼキは必死になって治癒魔法を施そうするが、血は滲んで面積は更に広がっていた。

まだ不安が残るイクシスの容態に戸惑いを隠せない。
しかし、此処で倒れる訳にはいかないんだ。

「私だけにして。」

美月は悲しみと怒りの混じった声でそう言うとロヴンは静かに深紅の瞳で見据える。

怖い、本当は凄く怖いよ。
でも、この人達を失ってしまう事の方が何よりも怖い。

だから、私が立ってなきゃ駄目なんだ。

しっかりしろ、美月。

ここで何もかも全てを諦める訳にはいかないんだ。

「…似てるなぁ」

「え?」

ロヴンがポツリと呟いたのを聞き逃してしまった美月は訝しげに問う。

しかし、それに応える事なくロヴンはゆっくりと美月へと距離を縮めていく。

思わず後退りする美月は背後に2人がいる事を意識した。

咄嗟に窓際の所まで方向を変え走る。

ロヴンは瀕死の状態の2人を素通りすると美月に沿って歩みを進めた。

「馬鹿だなぁ、そっちに逃げ場はないよ。」

今の状況に似つかわしくない穏やかな風が割れた窓ガラス越しに吹く。
その風は美月の焦茶の髪を悪戯に揺らす。
ロヴンは腕を伸ばし、指先で美月の長い髪に触れる。

「貴方には人の痛みが分からない…の?」

「痛みねぇ?分かってるよ、だから楽しいんじゃない!」

威嚇する美月を物ともせずにロヴンは嘲笑する。
美月の腕を掴み、距離が近くなった所でロヴンは口元を歪ませて嗤う。

そして、美月の制服のカッターシャツとブレザーに手を掛けると一気に下へと引き裂いていく。

信じられない様な展開に美月の口から絹を裂く様な悲鳴が広間に響き渡った。


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