吸血鬼の翼
どうやら、背後から打撃を受けた様で半獣人は床に打ち付けられ体全体から白煙が上がり調伏されている。
「「ルイノ!!」」
その背後から姿を表したのは見慣れた人物のモノだった。2人の少年は声を重ねてその人の名を言った。
「ラゼキ、イルト!大丈夫だった!?」
心配して走って来たのか、ルイノの呼吸は乱れている様だ。彼は半獣人の息が途絶えている所を見た後、2人の安否を確認する。
すると、羽を広げたままのイルトにルイノは気がついた。
視線を感じたイルトは目を背け2人の姿を見ようとしない。
否、こんな自分の姿を見てどんな顔をしているのか考えると怖くて出来なかった。
「イルト─…」
「来ないで!!」
キツく言い捨てたイルトは身を引きながら、言葉とは正反対に体は小刻みに震えている。
「ルイノ」
不意に呼ばれたルイノはラゼキの訴えかける暖色の瞳が己の瞳と重なった。
彼はラゼキのその想いに応じ、口には出さず静かに頷く。
そしてイルトと距離をゆっくりと縮める。
「俺が怖くないの…?」
人間じゃないんだよ?
吸血鬼なんだよ?
血だって、たまに欲しくて理性がどうにかなりそうだし──…
こんな自分なんてー。
イルトにとってルイノから軽蔑される事が一番恐ろしかった。
震えているイルトにルイノは労る様に彼を見つめる。
「何で僕がそんなに震えてる君に怖がる必要があるの?」
柔らかな声。
俺を見つけてくれた時と一緒の…あの優しい声。
この人は自分を軽蔑したりしない。
白い目を向ける事もない。
今まで出会った人間達とは違う。
直感的にそう感じた。
気がつけば、頬に暖かいモノが伝っていた。
ソレを拭おうとするが止まらない。
次々に溢れて来る今までにない感情。
「おいで、イルト…誰も君を嫌いになんかならないよ。」
ルイノは両腕を広げて少年が来るのを待つ。
イルトの両足は自然に彼の居る所へ向かっていく。
その温もりを感じる為に。
やっと青年の元に辿り着いた時のイルトの顔は涙でグシャグシャに濡れていた。