吸血鬼の翼
─苦しい。
酸素が薄い。
確かに自分の顔に本を置いてはいたが、妙に重力を感じる気がする。
否、実際そうなのだ。
まだ眠りから覚めたばかりなので、頭が朦朧としていたが、誰かに本の上から抑えられているのを理解する。
こんな事をするのは、1人だけ知っている。
「イク坊やろっ止めんか!!」
息苦しかったが、何とか声を出したラゼキは相手の愛称を言って止めさせようする。
すると、押さえられていた本を取り上げられると蒼い瞳と目が合った。
「…何、ふて寝してんの?」
静かな物言いに、思わず言葉に詰まったが、取りあえずさっきの文句を言おうと口を開く…が、それも虚しく蒼い瞳の少年は更に言葉を重ねる。
「それに、イクシス。オレはイク坊じゃないし…」
「ええやん、別に。愛称で呼んだって」
そんなラゼキにイクシスと名乗った少年は彼に冷ややかな視線を向けた。
そよそよと吹く風はイクシスの両耳についている黒い十字架のピアスを小さく揺らす。
「…ルイノは?」
ラゼキの足を払って、隣に座ると気怠そうな表情で少年は開いたままの史学書の本のページを何気なく捲る。
ラゼキは溜め息を吐いてから、礼拝堂がある奥の建物を人差し指で示した。
それを目の端で捉えたイクシスは口を尖らせる。
「ふぅん、またか…ツマンナイね。」
「せやな、残念やね。」
ははっと力無く笑うラゼキを一瞥した後、イクシスは史学書のページを更に捲るとあるページに差し掛かった。
「………界の」
あまりに小さな声だったので、ラゼキは首を傾けながらイクシスへ問い掛ける。
イクシスは史学書を静かに閉じて空を仰いだ。
「…異世界の使者」
「何が言いたいねん。お前…」
ラゼキが訝しげに眉を顰めて尋ねても、イクシスは無表情で空を眺めたまま。