吸血鬼の翼
「…ホコリくさい。」
「なっ!?」
眉間に皺を寄せながら、イクシスは扉を蹴飛ばした片足を左右に振る。
いきなりの出来事にイルトはただ、呆然とするばかりだった。そんな彼を一瞥した後、イクシスはフンと鼻を鳴らし、部屋から退出した。
それでも、まだ目を点にさせるイルトに今度はラゼキが部屋に入る。
「ご機嫌はどうや?」
「…ラゼキ、一体何なんだ?」
彼の質問に答える様子はなく、突然入って来たイクシスの行動の目的を聞く。
そんなイルトに苦笑しながら、ラゼキは寝台の脇にある椅子に座った。
「アイツなりにイルを心配してんのとちゃう?」
「…いや、絶対に嫌がらせだろ。」
ラゼキの考えを否定したイルトは静寂の戻った部屋に溜め息を吐く。
やはり、元気のないイルトにラゼキは椅子から立ち上がり、両手で頭を無造作に撫でる。
「?」
ラゼキの行動がよく分からないイルトはただ、されるがまま橙色の瞳を不思議そうに見つめた。
イルトの頭を撫でていた彼は真剣な表情を浮かべると、決意した様に口を開いた。
「イル、お前が言いたないんやったら俺は無理やりには聞かん。」
「………。」
いきなり、核心を突かれたみたいでイルトは言葉に詰まった。
そんな彼に構わず、ラゼキは尚も続ける。
「…やけど、言いたなったら、いつでも言いに来い。例え、どんな事でも、俺等はお前の仲間やからなっ」
それを言い終えたラゼキの表情は満面の笑みを広げていた。
綺麗と言うか、心底から気持ちの伝わる様な笑顔。
「ありがとう…」
思わず、嬉しくて泣きたくなる言葉と表情にイルトは無理やり口の両端を上げて見せた。
だが、少年の笑みにラゼキは首を横に振り、橙色の瞳を伏せる。
「泣きたい時は、泣けばええ。」
どうやら、イルトの感情を読み取ったらしく、ラゼキは少年の肩を軽く叩く。
胸が詰まる思いとは、こんな感じの時なのかな。
イルトはこみ上げて来るものを抑えきれなかった。
何で、いつも見抜かれるのだろうか。
何で、いつも支えられてばかりなのだろう。
だけど、嬉しくて。
笑おうとして両端を上げた口は歪な形を作る。
朱い瞳からは堰(せき)切ったかの様に涙が止めどなく溢れた。