吸血鬼の翼
* * *
ルイノに頼まれた買い出しのメモを見ながら、土で出来た道を歩いていたソウヒは近くの店に立ち寄り、どの食材が良いか品定めをしていた。
あの事件で屋台や店はそんなに出て居らず、ポツポツと数カ所あるだけだったので、すぐ終わりそうだ。
いつになったら、また沢山の市場が見れるのかなとソウヒは溜め息を吐く。
「ソウヒ!」
「んあ?」
いきなり、声を掛けられたソウヒは思わず間抜けな返事をする。後ろを振り返ると黒い髪に三つ編みをした女の子が息を切らしながら走って来ている。
よく礼拝堂に通って来る少女であり、良き友達でもある。
少し丈の長いスカートを揺らしながら、ソウヒの前まで来ると乱れた呼吸を整えた。
「リリア、どうした?」
それを見送ったソウヒは改めて少女に話し掛ける。
「ちょっと、待って…まだ息が…」
「運動不足だぞ。日頃、走らないからだな。」
「煩い!これでも、運動神経は良い方よ!」
冷やかすソウヒに怒声を浴びせて、それから漸く落ち着いたのかリリアは一息吐いた。
「…全く、これだから体力バカは困るわ。」
「うるせえ、―で、何か用?」
リリアの挑発にも構わず先を促す。
喧嘩する気はさらさらない。
話しを聞いたら帰ろうかなとソウヒは思った。
すると次第にリリアの顔は曇っていく。
それに違和感を覚えたソウヒは訝しげに少女を見やる。
「…リリア?」
「さっき、黒い服を着た人が…」
ソウヒに肩を掴まれ、我に返ったリリアは黒曜の色をした瞳でソウヒを見上げる。
今にも泣きそうな少女の震える肩は脅えている様だ。
黒い服って誰だと聞こうとしたら、リリアがソウヒの腕を勢い良く掴んだ。
「吸血鬼を知らないかって…」
「!」
リリアの口から吸血鬼と出た瞬間、体が動かなくなった。
自分でも動揺しているのが、よく分かる。
該当するのはこの町には1人。否、吸血鬼の種族は“あの戦争”以来から希少な存在なのだから、間違いなくあの淡い水色の髪をした少年の事だ。
だが、何故こんなにも己は狼狽えているのか分からない。
ただ、本能なのか、直感なのか…嫌な予感がした。