吸血鬼の翼



「クラウは軍を辞めたんだよな?」

何処か重たい空気の中、ソウヒはルイノに話しかけた。
それを目で追って、イクシスは表情を変えずにルイノを見る。
リリアは狼狽えながら、ソウヒとルイノを交互に目配せする。

「うん、それは確かだと思う。」

はっきりとは言えないが、クラウという人間は群れるのを嫌がる節があったのだ。
念の為に彼を調べてみたら、もう軍の人間じゃない事が分かった。

それに軍隊に居た頃も、単独で動いてたみたいだし、誰かと組んでいるという可能性は低い。

「…ソイツが森に現れてから、幾分経った?」

イクシスは静かにリリアを見つめる。
その冷静な眼差しに場違いだと分かっていたのだが、リリアは頬を赤く染めながらソウヒの背後に隠れた。

別に恋愛感情というものはないのだが、端整な容姿、透き通る様な蒼い瞳、癖のあるふわふわの髪にスラッとした体型。

誰もが、惹かれてしまいそうな姿に条件反射で意識してしまうのだ。
そんな周りの反応に当の本人は全く興味が無いみたいだけど。

「か…かれこれ、1時間は過ぎたかなぁ。」

「ふぅん…ねぇ、ルイノ」

「どうしたの?」

半ば挙動不審に答えるリリアを後目にイクシスはルイノの裾を小さく掴んだ。

「今日、泊まって良い?」

「………。」

その言葉を耳にした時ルイノは返事に困った。
何故なら、イクシスは分かっているのだ。
あの灰色の髪の青年が此処に来る事を。
リリアが知らないと言った所で、解決には結びつかない。
あの青年はこの町にイルトが居る事に確信を持っているだろう。
そうでなければ、わざわざこんな辺境な町まで来ないだろうし、何の意味もない。

シンパースはそんなに広い町ではないし、見つかるのは時間の問題。
今日中にはこの場所を見つけてしまうだろう。

答えられずにいるルイノにイクシスは両手でルイノの頬を挟んで自分の顔の正面に向かせる。

「ルイノ、ダイジョウブだから…」

「…イクシス。」

眠そうな表情を浮かべているが、蒼い瞳には力が入っている。
こうなったら、イクシスは梃子でも動かない。
少し溜め息を漏らした後、イクシスの頭を撫でる。

「……分かったよ。」

了承を得たイクシスは顔を少しだけ緩め、ルイノに微笑む。

「オレはルイノの為に居るからね。」

見惚れそうなイクシスの笑顔が見れるのは神父様だけなのだと、その掛け合いを見ていたリリアは改めて思った。



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