吸血鬼の翼
「ねぇ、ソウヒ。」
「ん?」
気になる事があったのか、リリアはソウヒの袖を指で摘む。
ソウヒが振り向くと少し躊躇いながら口を開いた。
「…クラウって人、イルトと会った事があるの?」
「ああ、イルトは一度だけな。」
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━━…
確かあれは、半年くらい前になるのだろうか、ここの国から西の方角にあるクァロナ国に行った時だ。
そこは治安が悪く、抗争も絶えない危険な国の1つ。
日差しが強い中、町の外れで俺達は半獣人と戦っていた。
ローブを身に着け、フードを被っていたイルトは必死に攻撃するも隙を突かれ、怪我をしてしまう。
「イルトっ」
既に半獣人と決着のついていた俺は慌ててイルトの元へ走る。
その時、イルトの目の前には彼を殺そうとする半獣人がいた。
駄目だと思ったイルトは思わず、目を瞑ったが、いつになっても痛みが自分を襲う事はない。
不思議に感じたイルトが目を開けると半獣人は事切れている。
そして、その後ろには血のついた短刀を手に持っている青年が立っていた。
「貴様が吸血鬼か…。」
「……え?」
唐突な青年の言葉に一瞬、戸惑ったイルトだが、我に返り、少し乱れたフードを目深に被り直す。
俺が辿り着いて、その青年を警戒する様にイルトの前に立った。
「テメェは…クラウじゃねぇかっ」
「退け、貴様に用はない。」
クラウは淡白な物言いと冷たい視線を俺に向ける。
イルトはその状況を理解してか、俺の腕を掴み自身が前に出ようとした。
「イルト!?」
「ソウヒ、下がって…」
さっきの半獣人との戦いで充分に体力の回復していないイルトが、どうしてこの青年と渡り合える?
そればかりか、今日は日差しも厳しいし、イルトにとってはキツい筈だ。
「ダメだ、聞けねぇよ。」
「ソウヒ…」
イルトの手首を掴み返し、首を横に振る。
その対応に当然、クラウは納得がいかないらしく眉間に皺を刻み、短刀を握り直した。
「邪魔をするなら、貴様を殺すだけだ。」
「おもしれぇ!やってみろよっ」
俺はクラウを挑発して、イルトを庇う様に間合いを取った。