realize
私が呆気にとられてぽかんとしてると、
アルバイトの女の子が部屋に入ってきた。
「由紀さん、店長が帰ってきたので
ここにいること伝えてあるのですぐくると思いますよ!」
彼女はそう言うと、
手早く高校の制服に着替え始めた。
どうやらバイトの終わり時間らしい。
ここはアルバイトの高校生が何人かいるけれど、"裏の仕事"がある日はその時間帯にアルバイトの女の子は使わないようにしているらしい。
「さっきの女の人って…」
着替えてる後ろから声をかけると
アルバイトの女の子はカバンから何かを取り出しながら軽快に話始めた。
「あ、亜美香さんですか?
ここのケーキ作ってるパティシエですよ?
由紀さん会うの初めてでしたっけ?」
1つ聞いたら10個くらい言葉が返ってきそうなリズムで早口に会話が返ってくる。
今時の女子高生だな、と思っていると
彼女は構わず話し続けた。
「でもあれは絶対に店長の彼女ですよ。
超仲良しだし、この前キスしてたし。」
…キス……。
「店長に聞いてもはぐらかすばっかりで。
でも私は由紀さんが彼女かと思ってたのに!
店長、明らかに大事っぽい態度だし。」
…え?
「なんか、他の人と扱い違うってゆーかぁ…」
「…いや、そんなことないのよ、
だって年だって離れてるし、…ほら、姉的な?」
女の子はたいして興味無さそうに
考えるポーズを暫くとると、
「そーですよね、
由紀さんにはもっと大人の男!みたいな彼氏がいそう!
店長と亜美香さんは年齢的にもピッタリだし、お似合いですよね♪」
…ズキッ
女の子は一気にそう言うと、
満足したかのように、
私もイケメン彼氏ほしいなー、と呟きながら
スタッフルームを出ていった。
パタリと閉まったドアの音を皮切りに
私は静まりかえった部屋に取り残された。
さっきの胸の痛みが増すように
自分の心臓が高鳴っていくのがわかった。