きみが死ぬまでそばにいる
繕う
 
「俺、先輩が好きです」

 そう言った陸が知らない男のように見えた。自分のことを俺と言って、わたしを真っ直ぐに見つめてくる強い眼差し。ほんの一週間会わなかっただけで、何が彼を変えてしまったのだろう。

 ――違う。

 きっとこれが椎名陸という男なのだ。わたしが知らなかっただけ、知った気になっていただけ。

「先輩……? 返事は?」

 黙り込んでしまったわたしに、陸は答えを促した。
 もちろん返事はノーだ。弟とどうこうなるとか、考えられないし、ありえない。それ以前に、わたしは陸のことを好きじゃない。むしろ嫌いだ、こんな純粋培養みたいな男は。
 だけど、にべもなく断って、それで本当にいいのだろうか。わたしたちの関係は切れる、復讐のシナリオからは大きく外れることになる。

「……えっと、あの……冗談だよね?」

 わたしが咄嗟に選んだのは、現実逃避。冗談でした、そう言って陸が笑ってくれるわずかな可能性にかけた。
 あわよくば、仲のいい先輩後輩のまま……なんて。
 
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